探究型教育ナビゲータ 矢萩邦彦 氏が語る
「探究的な学びと探究心を育む旅」
『探究Journey』コンセプター(監修者)
探究型教育ナビゲータ 矢萩邦彦 氏
知窓学舎 塾長/実践教育ジャーナリスト/教養の未来研究所 所長/一般社団法人リベラルコンサルティング協議会 理事/ 聖学院中学校・高等学校 学習プログラムデザイナー/ラーンネット・エッジ「自由への教養」カリキュラムマネージャー
探究型学習・想像力教育・パラレルキャリアの第一人者。 25年間、20,000人を超える直接指導経験を活かし「すべての学習に教養と哲学を」をコンセプトに「興味開発と能力開発」を実践する統合型学習塾『知窓学舎』を運営。 「現場で授業を担当し続けること」をモットーに学校・民間を問わず多様な教育現場で出張授業・講演・研修・監修顧問などを展開している。 HISスタディツアーでは、探究型教育ナビゲータとして「探究的な学びの旅」である『探究Journey』を監修。 親子で探究心を育む旅づくりに取り組んでいる。
「理想的な学び」とはどんな学びでしょうか?
「楽しい学び」、「社会に出て役に立つ学び」、誰もがそんな理想を持っているのではないかと思います。 しかし、このシンプルな2つの学びができていると、どれだけのみなさんが感じているでしょうか。
従来型の学習は、答えのある問題に正解すること、テストで高得点を取ることが目的になってしまいがちです。 それが楽しい人はよいのですが、果たして社会に出て役に立つのでしょうか。
一問一答的な学びに慣れてしまうと、マニュアルが無いと動けなくなってしまったり、臨機応変な対処ができなくなってしまいます。 それでも、今までの社会ではマニュアル通り正確でスピーディーに作業をこなせることは社会に出て役に立つスキルでした。 しかし、あらゆる地域や業界がネットワークで繋がり、そこにAIやロボットが急速に入り込んできている現代において、 正確さやスピードなどはあまり役に立たなくなってきました。
政府もこのままでは社会で活躍できる人材を学校教育で育てることができないと判断し、 2020年より学習指導要領の中に探究を盛り込むことになったわけです。 そんな中ではじまったコロナ禍は、まさに予測不可能な事態です。 私たちは、答えが見えない中で、試行錯誤を続ける人と、思考停止してしまう人の二極化を目の当たりにしました。
そこで、探究型の学びが注目されてきたわけです。
探究するというのは「答えのない問い」に主体的に立ち向かうことでもあります。
好奇心を見逃さずに、謎や問いを見つけて探究していく経験を繰り返す中で「生きる力」を身につけていくのです。
そのためには、好奇心が爆発するような場所や体験はもちろん、適切な問いかけやナビゲートが必要です。
自分で考えて、自己決定して、AIと協働して問題を解決していく。
自分の興味がある分野で、様々な創造的な活動を展開していく。
そんな自分にとっても社会にとってもwin-winでハッピーな人生を送る力。
それが私の考える「生きる力」です。
そして、その力は、決して我慢して努力して勝ち取るのものではなく、生き生きと自律して楽しく学ぶことで身につく力なのです。
学校では具体性を大事にします。具体的な方が伝わりやすく、評価がしやすいためです。
だから、先生たちは具体的に話そうとするし、生徒にも具体的なアウトプットを求めます。
「なんとなく」とか「たぶん」なんて言うと、「ハッキリしなさい」なんて言われてしまうことも多いでしょう。
でも、私たちの思考は「なんとなく」からはじまることの方が多いんです。
なんとなく分かったことが、やっているうちにハッキリ分かったり、 なんとなく楽しさを感じてのめり込んでいった結果、ものすごい知識や方法を身につけたり。 「なんとなく」という柔軟な状態は、好奇心が爆発して、とても豊かな学びのモードに入りやすい状態です。
「なんかおもしろい!」「◯◯に似てる気がする!」「これって◯◯に使えるんじゃないかな?」 そこには、一問一答の学習では得られない、まさに生きる力の源泉があります。
いつもと違う場所に行って、いつもと違う人と会い、いつもと違うモノやコトを感じる。
旅は、すべての体験に大小さまざまな驚きや発見があります。
旅での学びは、これからの時代に必要な生きる力を身につけられるだけでなく、 楽しくてワクワクする原体験を持つことで、学ぶことの本来の面白さを体験できるのです。
最近は「遊び」が大事だという声もよく聞きます。
私もこれには大賛成なのですが、どこでどうやって遊ぶかで経験の質は変わります。ただ遊べばいいっていうものでもないんですね。
ただただ体験を繰り返しても、得られる経験の質が低ければ成長もしにくいわけです。
ここに、その場所を熟知しているナビゲーターと、教育や探究を知り実践しているナビゲーターが共に旅を作る意味があります。
設計し用意される行程や問いの質はもちろん、ナビゲーターが一緒に旅をしながらその場で適切な問いを立てて、ともに考えるライブ感が探究心に火を点けるのです。
探究型の学びにおいて一番重要なのが環境です。
特に、周りの大人が探究的かどうかということが大事なんです。
たとえば、保護者や先生の自己肯定感が低いと、子どもの自己肯定感を上げることは難しいのは、なんとなく想像できると思います。
元気で楽しい人と一緒にいると、こちらも元気で楽しくなりますよね。それと同じです。
探究型の学びは、主体的でなければなりません。
やりたくないのにやらされたのでは、いかにテーマや体験が探究的でも、従来型の詰め込み教育と変わりません。
主体的になるためには、周囲の大人が探究的な学びを理解する必要があります。
「なんのために」という逆算的な思考ではなく、「楽しそうだからやってみようか」という感覚を共有していることで、探究のサイクルは回り始めます。
それだけなら、親子で一緒に体験しなくても、と思われるかも知れませんが、 探究活動を学びにして行くには対話をして共有したり、振り返りをして経験として落とし込むことが大事なんです。
そして、その行程はなかなか子どもだけでできるものではありません。
一緒に体験すれば、それぞれが体験者として感想や意見を持ちますし、何よりライブ感を共有できます。
一緒にした体験についてならあれこれ対話することは楽しいですが、子どもだけが体験したのでは「報告」と「評価」になってしまいます。
そして、何より大事なのは、共に体験することで一緒に成長できるという感覚です。
従来型の学びであれば、知っているか知らないかという知識ベースで考えてしまうので、知っている大人は改めて学ぶ価値をあまり感じられません。
しかし、探究的な学びは、体験の中で答えのない問いに向き合うという学びですから、年齢や経験に関係なく、誰もが成長しアップデートできるものなのです。
「子どものために子どもにやらせる」のではなく、共に体験しそれぞれが発見したりワクワクすることが、豊かに「生きる力」になっていきます。
教育に関わる人でもなかなか明確に答えられないのではないかと思います。
もちろん、解釈は無限にありますし模範解答が存在するわけではないですが、みなさんなりの解釈を作るために、核となるエッセンスをまとめてみたいと思います。
子どもの頃は生きているだけで冒険だったのに、いつの間にか予定調和な世界観に飲み込まれて、好奇心を失ってしまい、知っているつもりになってしまったり、知ることに意味を感じなくなってしまいます。驚く感性を失わせずに養うことこそ、探究の第一歩といえます。そのためには周りの大人がそのような感性や価値観を取り戻す必要があります。
親子で旅することは、探究的な感性を養い、方法を身につける最高の経験です。ぜひ子どもと一緒にワクワクしながら、楽しく豊かに学び、アップデートしていきましょう!